犯罪を犯した人に対して、ニュースなどで「書類送検された」などとよく耳にしますが、同様に「逮捕」や「起訴」といった言葉が使われることもあり、これらの違いを正確に説明するのは難しいのではないでしょうか。今回は、刑事事件が処理される流れを簡単に紹介した上で、書類送検と逮捕や起訴といった言葉との違いや、前科が付くかどうかについても解説するのでチェックしてみてください。
刑事事件の流れ
まず、刑事事件に相当する犯罪が発生すると、警察の捜査によって犯罪を犯したことが疑われる被疑者を特定します(場合によっては逮捕もされます)。続いて、被疑者の取り調べ・事情聴取が行われた後、検察官へと事件の書類を(逮捕された場合は身柄も)送致し、裁判所へ訴えるかどうかを判断します。
被疑者が起訴された場合、裁判所での審理を経て判決が言い渡され(不服であれば上訴)、これが確定すると刑が執行されます。このように、いくつもの過程を踏むのは、被疑者に誤った処罰を与え、人権を侵害する危険性を可能な限り排除するためです。
以上の流れの中で、刑事事件は警察から検察へと送致されることになるのですが、これが「送検」と略され、捜査に関係する書類のみを送ることから「書類送検」と呼ばれています。これに対し、「逮捕」とは被疑者の身柄を強制的に拘束し、留置所に送ることを指し、刑事事件がまだ警察の関わる段階で行われるものです。また、「起訴」は事件が検察へと渡った後に、検察官が捜査内容を考慮してから、裁判所に判断を委ねるために行う手続きになります。
身柄事件は書類送検とは呼ばない
注意しておきたいのは、被疑者が逮捕された刑事事件では、検察官への送致は書類送検とは呼ばないことです。
逮捕には、令状を発行して行う通常の逮捕と、現行犯逮捕や殺人などの重罪を犯した際にする緊急逮捕という、令状なしでできるものがあります。いずれも被疑者の逃亡や証拠の隠滅などを防ぐために、犯罪を犯した確たる証拠の下で行われ、この後の送検では捜査書類だけでなく被疑者の身柄も引き渡されることになります。
被疑者が重い罪を犯したり、犯行の否認や前科がある場合などで逮捕の必要性が高まるのですが、実際に逮捕されると身柄事件となり、検察への送致は身柄送検と呼ばれます。人権侵害の観点から、この身柄送検は被疑者が逮捕されてから48時間以内に行う必要があります。
在宅事件は書類送検
書類送検とされるのは、逮捕の要件を満たさない、または逮捕の必要性が低いと判断される事件に限られ、送検に時間制限はないため、事件の発覚後何日も経過してから行われることもあります。このような刑事事件は在宅事件と呼ばれ、警察は被疑者を呼び出して取り調べるなど、逮捕することなく捜査を進めます。
そのため、被疑者は普段と変わらない生活を送りながら、何回か警察署での取り調べに応じることになります。犯した罪が軽く、逃亡や証拠隠滅の恐れも低い場合に適用され、捜査の過程でまとめられた捜査書類のみが検察官へと送られるため、この手続きを書類送検と呼びます。送致される書類には、現場検証の書類や供述調書、被害届の他、犯行に使用された証拠物なども含まれます。
基本的に、警察が捜査を行った犯罪は全て検察官に送致する必要があるのですが、一部の事件に関しては警察が手続きを終わらせることもでき、これを微罪処分といいます。成立する条件は3種類あり、1つ目は被害がごくわずかでそれも回復しており、被害者も処罰を望んでおらず、偶発的で再犯の恐れもない窃盗や詐欺、横領といった犯罪の場合です。2つ目は、極めて少額で共犯者全てに再犯の恐れが認められない賭博の場合。3つ目は偶発的な暴行や、前科がない・被害者が処罰を希望しない場合などに、検事正が指示した犯罪に適用されます。
書類送検では前科はつかない
また、刑事事件に関する一連の手続きにおいて、書類送検はまだ途中の段階であり、何らかの刑事処分がなされる訳ではありません。あくまでマスコミ用語的な側面が強く、単なる手続きの呼び名なので、少なくとも裁判所で有罪の判決が確定しない限りは、前科が付くようなこともないと考えてください。
書類送検されてからも、検察官は必要に応じて警察に再捜査を指示することもあり、そこで再び証拠などを精査して被疑者への処分を判断します。もともと事件の重大性が低いのに加え、そこで証拠が不十分であったり、罪が軽く反省の色もうかがえるような場合などは不起訴処分になることが多い傾向にあります。
不起訴なら前科が津名海
不起訴になれば、処罰が下されることも前科が付く心配もなくなり、ただ書類送検された記録が残るだけで不利益はありません。付け加えれば、たとえ起訴されたとしても、判決で無罪となればこれも前科は付きません。とはいえ、書類送検された事件の30%程度は起訴処分となっていることからも、決して安心できる訳ではないのも確かです。
起訴とならないためには、被害者の被害が回復しており、加害者への処罰を求めていない状態であることが最も重要となります。そのためにも、被害者との示談を成り立たせることは不可欠です。ただし、加害者が単独で被害者と示談の話し合いをすることは困難な場合が多いので、弁護士に相談することも視野に入れる必要があるでしょう。