刑事事件における示談を行うことの意義

示談

なにがしかの刑事事件を起こしてしまった場合、裁判を受けて刑罰を科されることになります。しかし、刑罰を受けることだけが、刑事事件を解決する方法ではありません。民事訴訟と同様にして、刑事事件でも、場合によっては示談という解決方法をとることができ、この示談というものは裁判や刑罰に大きな影響を与えるものです。

示談とは

示談とは、事件や事故を起こしてしまった加害者が被害者に対して、当事者間の同意のもと賠償金(示談金)を支払うことによって、当事者同士で和解をするということです。しかし、全ての刑事事件において示談をすることが可能というわけではなく、また示談が成立したからと言って罪がなくなるというわけではないということは理解しなければなりません。

まず、示談をすることが可能な刑事事件というものには限りがあります。前提として被害者がいる刑事事件なのですが、暴行や傷害罪などの粗暴犯、強制性交等(旧強姦)、強制わいせつ、痴漢などの性犯罪、窃盗や詐欺罪などといった横領罪などがそれらにあたります。

示談ができない刑事事件

これに対して覚せい剤取締法違反や麻薬取締法違反などといった犯罪は、被害者がいない状態のため示談交渉をすることはできません。さらに、被害者がいたとしても、殺人罪などといった重い罪の場合や被害者が法人である場合などは示談を断られることが多い上に、被害者が警察官などの公務執行妨害や贈収賄罪、偽造罪などといった国家の法益を守るための法律を破った場合は、示談は受け付けられません。

示談できたから刑罰が科されない訳ではない

たとえ示談交渉が成功して示談金を被害者に支払い当事者同士が合意し解決したとしても、犯罪を行った事実は消えないので、刑罰が科されないというわけではありません。ならば示談金を支払うばかりで損ではないのかと考える人もいます。

示談のメリット

しかし、示談を行うことには様々なメリットがあります。まずはじめに告訴や被害届を取り下げてもらえる可能性があるということです。強制わいせつや器物破損罪や名誉毀損罪などといったいくつかの犯罪は、親告罪にあたります。

被害者からの「被害にあったので加害者をつかまえて罰してほしい」という告訴がなされて初めて刑事事件となるのです。事件の程度や経緯などにもよりますが、示談交渉によって被害者と和解することができれば、告訴を取り下げてもらい、それ以上刑事事件として捜査されず、罪に問われないということもあります。

たとえ示談が成功したとしても、親告罪以外の犯罪を起こしたならば刑事事件として捜査が続きます。そのような場合でも、やはり示談を行うことは大きなメリットがあり、それは不起訴になる可能性と刑罰が軽くなる可能性です。

不起訴とは

不起訴とは、刑事事件の手続きの途中で被疑者に対して「これ以上の罰則は必要ない」あるいは「十分な証拠がない」と判断されて刑事裁判を起こすことなく釈放されることです。示談が成立していても重い罪の場合は不起訴の可能性は少ないですが、その場合でも示談は刑罰に大きく影響を与えます。

刑事事件における起訴・不起訴の判断や実刑にするか執行猶予を付けるかなど、どれだけの刑罰を与えるかといった判断は、検察官や裁判官が様々な事情を考慮して決めていきます。それは被害の重大性であったり、社会的な影響、犯罪の計画性、悪質さ、前科、成育環境などが当てはまり、その中の一つとして示談の成立の有無は最もインパクトのある事情です。

検察庁や裁判所というものは刑事事件にあたり、被害者に金銭的な賠償がなされており、被害者と和解し、被害者がもはや犯人の処罰を望んでいない、あるいは被疑者・被告人が十分に反省していると判断された場合は、被疑者や被告人に対して寛大な処置をする傾向にあります。

刑事事件には応報(復讐)の側面が強いので、被害者との和解は大きな影響を与え、不起訴や軽い刑罰へとつながるのです。また、このようなメリット以外にも示談には重要な役割があります。それは、被害者に対して直接反省の意思を伝えることができるということです。

もし、犯罪を犯したけれど、罰金の支払いだけで済ませればよいと考えて、被害者の存在を無視して謝罪や反省もしなかった場合、被害者を2度傷つけることになります。そのことは、被疑者・被告人の将来的に大きな罪悪感としてのしかかる可能性が少なくありません。そのことも含めて、示談を行うということは非常に重要な意味を持っています。

示談は弁護士に依頼する

刑事事件にあたって示談を行うことは非常に重要ですが、示談は必ずしもできるわけではなく、示談交渉の際には多くの注意事項があります。まず、殺人罪などの重い罪を犯した場合、示談交渉を遺族にすぐに持ちかけることは受け入れられるものではないということも多いです。

また被害者が複数であったり、面識がない場合も難しいでしょう。しかし、刑事事件では逮捕、送検、拘留、起訴、裁判といった手順が決められた期間内で行われるので、示談交渉は素早く行う必要があります。

そのため、もし示談を行うことを検討しているのならば、被害者の心情と期間、手続きを十分に考慮して、示談交渉を専門に行う弁護士に依頼することがベストです。また、示談金の相場についても、良く知らない人が多く、様々な情報に被害者、被疑者共に惑わされてしまうことが多いです。このことも踏まえて示談の経験が豊富な弁護士を探さなければなりません。いずれにしろ、示談をすることには、大きなメリットもありますが、それ以上に被害者に対して十分で誠意のある謝罪と反省の意思を示すことが最も大切なことです。