刑事事件の時効年数とその撤廃・変動

時効とは

時効とは、なにがしかの出来事が生じてから一定期間が経過したことをおもな法律要件として、現在の実際の状態が法律上の根拠を有しているかどうかを問わずにその状態に適合する権利や制度、法律関係が変動したとして扱う制度のことです。

簡単に言えば、時効期間を過ぎてしまうと、それまでの状態が変わらなくとも、権利が消失したり変動したりするということです。時効とは刑事事件に関わるものだけではなく、民事事件にも適用されており、さまざまな場面で活用されています。

刑事事件における時効とは、公訴時効と刑の時効というものがあり、一般的には公訴時効のことを指すことが多いです。

公訴時効とは、刑事上の概念であり犯罪が終わったときから一定期間が過ぎ、その間に公訴がされなければ、公訴が提起できなくなる(公訴権が消滅する)ということです。これは、刑事訴訟法250条で定められており、日本において公訴時効完成までの期間は対象となる犯罪の法定刑が基準とされています。これに対して刑の時効というものは、確定した刑の執行を消滅させることであり、刑法第31条・32条で定められています。

民事事件のみならず、刑事事件においても時効はなぜあるのかという疑問の声は、数多く存在しています。しかし、公訴時効制度の趣旨については、いずれの法律にも解釈や釈明といったものが明文化されて盛り込まれていることはありません。加えて、判例の立場も明らかにはされていません。そのような中でも、刑事事件における公訴時効の制度が設けられている理由についてはいくつかの見解が存在しています。

一つめに実体法説というものがあります。これは、時の経過とともに「犯人が憎い」、「犯罪に対して厳罰に処すべきである」という社会の復讐感情や被害者の感情も減少するうえに、感情の薄弱化に伴い犯罪者の刑罰によって一般人に対して犯罪を行おうとする思いを止まらせる必要性、期間の経過による犯人に対する再教育の必要性と可罰性が低下すると考えられることに由来しているというものです

これらの理由により、国家の刑罰権が消滅すると考えられています。この考え方は、社会的な意義も含まれますが、捜査が長引くことにより被害者が事件についての感情を忘れることができないといったことに対する処置も含まれています。

訴訟法説について知る

二つめが訴訟法説です。これは、時の経過とともに証拠物(凶器や写真などといった物的証拠)が散逸、腐敗することにより事実認定が困難になり適切な審理ができなくなることを防ぐことが目的であるというものです。

近年DNA鑑定法などの技術の躍進によって、一部撤廃や変動が生まれています。また、似たような見解として誤審防止説というものがあります。これは、物的証拠ではなくアリバイなどの無実の証拠は時の経過とともになくなっていくものであり、無実の者を有罪にすることを防ぐために時効があるとする考えです。

これらに加えて、捜査員の数や労力にも限界があり、新たな事件の捜査に対応するためにも時効が設けられていると考えられています

さらに、犯人と疑われているものが一定期間訴追されないのであれば公訴権が消滅するという解釈もあります。なにがしかの事件があった場合、被害者本人やその周辺の近しい人々、関わる人々が疑われ捜査されますが、これは法的に非常に不安定な状態であり、精神衛生上にも良くないため、これを長引かせることを防ぐために時効が設けられているとされています。

一部刑事事件には公訴時効が設けられていない

このようにさまざまな理由によって公訴時効は設けられていますが、公訴時効が設けられていない刑事事件というものもあります。公訴時効がないとされている刑事事件とは、人を死亡させて死刑にあたる罪を犯した場合であり、殺人罪や強盗殺人罪がそれに当たります。

人を死亡させて、無期懲役や禁錮刑にあたる場合は公訴時効は30年であり、強姦致死罪や強制わいせつ罪が当たります。人を死亡させず死罪にあたる放火罪や外患誘致罪などの罪は時効が25年、人を死亡させ、20年の禁錮・懲役にあたる傷害致死罪などは20年、強盗強姦罪や身代金目的略奪罪などならば15年、業務上過失致死や強盗罪や傷害罪などは10年となっています。

このほか窃盗や詐欺ならば7年、暴行罪や名誉毀損罪ならば3年、侮辱罪などは1年となっています。

これらの公訴時効は数年単位で改正されています。その理由としては、世論や新たな捜査手法が確立されたことにあります。かつて人を死亡させて死刑にあたる罪であっても、時効は25年ともうけられていましたが、現在では時効が撤廃されています。このように時効は年々伸びたり、一部撤廃されていく傾向にあります

公訴時効とは、犯罪が発生した後に起訴されることができなくなるまでの期間です。刑事事件では、逮捕後にしばらくの捜査期間を経て起訴、裁判へと進みます。そのため、逮捕後にも捜査期間中に被疑者が否認し続ければ時効を迎え起訴されない可能性もあります。